本日の天声人語より・・・

 一昨年、97歳で亡くなった詩人の杉山平一(へいいち)さんに、「通過」という詩がある。たった3行の作品だ。〈急行にのって駅を通過するとき/ベンチに腰かけている人がチラリと見える/その人を私のように 思う〉


▼自分の人生は急行ではなく鈍行列車のようなものだ。そんな感懐だろうか。この詩の内容を紹介しながら、脚本家の山田太一さんがきのうの本紙オピニオン面で語っている。「ぼくは、各駅停車の駅にいる人が、豊かでかっこよく見える」と


▼プラスとされる価値でなくマイナスとみられることが実はしばしば「人間を潤している」と山田さんはいう。「災害や病気を経験している人とそうでない人とでは、人間の差が生じていると思います」。長年、漫然と日々を送ってきた身には、ぐさっと刺さる言葉である


▼艱難(かんなん)、汝(なんじ)を玉にす。仮に、そんな経験を封じられたらどうなるか。英国の小説家オルダス・ハックスリーの『すばらしい新世界』。舞台は未来の「ユートピア」である。人々は試験管で「製造」される。厳しい階級社会だが、薬や教育によってだれも不満や疑問を持たず幸せに生きる


▼一見楽園でも実はがんじがらめの管理社会。外からきた「野蛮人」はその本質を見抜き、統治者に向かって言う。「わたしは不幸になる権利を求めているんです」。病気になる権利も、不安や苦悩に苛(さいな)まれる権利も、それらすべてを要求する、と


▼生きるのは実際、楽ではない。鈍行でいいから、えっちらおっちら行ってみよう。
by flowroku | 2014-01-10 21:10 | 雑感 | Comments(0)
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